原点

僕は小学2年のときから、近所の「モリ先生」のところへ、ピアノのオケイコに通っていました。
「モリ先生」のお宅は大きなお宅で、グランドピアノがある部屋は8畳ぐらいの広さ。ピアノの脇には小さい椅子が4~5脚並んでいて、そこに生徒たちが座って自分の順番を待ったものです。

椅子のそばには小さな本棚があって、「サザエさん」「いじわるばあさん」「エプロンおばさん」「似たもの一家」...つまり長谷川町子のマンガがズラリと並んでいました。

僕はこのマンガを読むのが楽しみで、予定時間より早くここへ来て、椅子に腰掛けてマンガを読みふけっていたのを覚えています。いまでも「サザエさん」のマンガを読むと、あの雰囲気、あの空気が鮮やかによみがえります。

そんな僕も中学生になると水泳部が忙しくなったため、中学1年の冬にピアノのオケイコをやめてしまいました。中学校3年の時には千葉県へと引っ越し、さらに関西へと引越し......そして20年の歳月が流れました。

20年ぶりにこの街に戻ってみたら、もう「モリ先生」のお宅はなくなっていました。何でもご主人を亡くされたとかで、自宅を引き払って千葉に住む子供さんのところを移り住んでしまったとのことでした。

さて、「モリ先生」のお宅の数軒隣にタバコ屋さんがあります。アイスクリームのショーケースとジュースの自販機もあります。ここのおばちゃんを僕は小学生の頃から知っているのですが、今でも通勤の途中でここでタバコとペットボトルを買うのが僕の日課となっています。

このおばちゃんと「モリ先生」の話題になったとき、おばちゃんが言いました。
「ウチの子も先生のお世話になったけど、先生が引っ越すとき、あそこの椅子を置いていったのよ」
そして見せてもらったのがこの椅子でした。

そうそう、この椅子!よくもまあ残っていたものだと、感心しました。
おばちゃんいわく、「高いところのものを取るのに便利で重宝しているワ」。

「懐かしいなぁ、この椅子。いつか不要になっても絶対に捨てないで下さいね」。
そんな会話をしたのが3年前のことでした。

そしておばちゃんのお店もついに建て替えとなり、昨日、おばちゃんがわざわざ僕の家までこの椅子を届けて下さいました。

何の因果か運命かはわかりませんが、僕はいま、音楽教室を経営する立場にいます。
12日と13日には「イマージュISOGO 2008ライブ」に鍵盤弾きとして出演します。

そう、この椅子は僕のいまやっていることの原点なのです。

コメント

  1. TAM より:

    感動しました(T_T)

  2. WTBtai(^^) より:

    運命とか偶然とか人生はほんとに感動的で・・・
    興味深く楽しい物ですね。

  3. しょーちゃん より:

    涙出ました。
    ライブ前にいい話をありがとうございました。
    物の記憶ってすごいですよね。その時の空気や時間までふっと目の前に浮かんできます。
    当日、spiduction66さんの演奏を観ながら椅子を思い出して、泣いてしまいそうです。

  4. spiduction66 より:

    >TAMTAM
    でしょ!人の再会も大切だけど「モノ」との再会はなおさらだよ。

    >WTBtai(^^)さん
    運命も偶然も大切にしてゆきたいです。
    きっと色々な形で帰ってくるものですから。

    >しょーちゃん
    他人が苦笑するような演奏はしても、
    まだまだ泣かせることはできません(笑)

    >All
    センチメンタルなもの言いになりますが、この椅子はタバコ屋さんの軒先で僕と再会するのを待っていたような気がしてならないのです。再会するに値する人間になったかどうかは別ですが....「モノが初心を思い出させる」ということを自分でも感じています。一生家宝にします。

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