100円CDの世界

ブックオフやその手のリサイクルショップでは必ず100円CDコーナーを漁るようにしている。
どうでもいいようなCDの山の中に掘り出し物もあったりするからだ。
最近のブックオフはなぜか100円CDコーナーを縮小しており、「250円~」コーナーへとシフトしているのが気になるけど、店舗の片隅のワゴンにごっそり並べられている場合もあるから要チェックだ。

以前に近所のレンタルビデオ屋さんで「10円均一コーナー」を物色した成果については「秋の大収穫祭(1)」「秋の大収穫祭(2)」に書いたことがあるけど、今回は長いスパンで入手した100円CDの名盤について書いてみる。

●SMAP : VEST (2001.3.23)

「げー!これも100円かよ!」とワゴン漁りをしていて驚いた1枚(いや、2枚組だから2枚)。ミリオン売ると中古市場でもダブついてしまうという典型的なパターンかもしれない。2000年にリリースされた「らいおんハート」から、逆に時間をさかのぼってゆく形で1991年のデビューシングル「Can’t Stop!! -LOVING-」までを収録している。当然のことながら2003年の「世界に一つだけの花」は入ってないわけだけど、僕にとってはそれは重要ではない。
この「逆収録」順というのは別の意味を持っていると思う。
彼らの楽曲のクオリティが最も高かった時代....歌はともかくとして....の楽曲をDISC1に持ってくることで、最初に伝えたいことを伝えようとするアーティスティックな側面ではないだろうか。DISC1には「らいおんハート」「夜空のムコウ」「セロリ」「ダイナマイト」「SHAKE」「青いイナズマ」なんて名曲がゴッソリ詰まっている。
さてさて、そんなSMAPの「VEST」だが、画像の通りジャケットに「ベスト」のイラストが描かれている。
実はこのイラストには色違いがあって、白以外にも何枚ものバリエーションがある。ワゴンの中には4枚中3枚の「白」あったけど、僕は迷わずにこの色を買った。

(SMAP VEST グリーン)
色つきのものはズバリ初回限定盤だからだ。どうせ100円ならば貴重なモノを買っておくに限る。
これは余談だけど、本日先生方に聞かせたらキャーキャー言って喜んでいた。
「ああ、この子たちもルーズソックスに"たまごっち"を持った高校生ギャルだったんだな」と改めて思った。

●Chara : Junior Sweet (1997.9.21)

Charaの歌というのはなぜか僕の娘たちの子守唄だった。
長女をひざに乗せて「Swallowtail Butterfly ?あいのうた?」(ちょうど娘が生まれた1996年10月がヒットの真っ最中だった)を、「わたーちは~、あいのうーちゃを~」と赤ちゃん言葉で歌ってやったかと思えば、次女は「Duca」を彼女の名前を使った替え歌にして歌ったものだ。この2曲の持つ「個性」が、そのまま娘たちの「個性」と一致してしまっているから不思議だ。
これはそんな絶頂期のCharaが出した稀代の名盤。なぜ持ってなかったか不思議な位だけど、当時CDショップの店長という薄給では、買いたくても買えないCDというのはゴマンとあった。育児の出費も大変だったというのもある。だからこそ「Charaの子守唄」だったのかもしれない。
なお、「あいのうた」も「Duca」もここには収録されていないけど、「やさしい気持ち」「ミルク」「タイムマシーン」という3つのシングル、「しましまのバンビ」「私の名前はおバカさん」「Junior Sweet」などといった代表曲までみっちり収録されている。これが100円で買えることの意味を真剣に考えさせられる1枚だ。

●MIHO : Drop by Drop (2000,8,2)

CDショップのスタッフの「勘」というのは時折凄いものがある。
華原朋美の3rd「nine cubes」を聞いた時に、全く小室哲哉の愛情が感じられないプロデュースワークに「こりゃあ、もしかして別れたんじゃないか?」とスタッフの誰もが思った。「愛情が感じられない」というのには理由があって、もともと不安定な彼女の歌声を、今までは気合の入ったダブルトラッキングやエフェクトによって見事に補正していたものが、いきなり放り出されていたからだ。生声そのまんまで不安定に不安げに歌う彼女の歌声を聞いた我々は、その一方でglobeのKEIKOとの恋の進展を確信していた。
小室との破局が報道されたのは、その直後のことだった。「あまりにも気の毒」というのはスタッフ全員の一致した意見だった。
さて、そんな風に「プロデューサーが自分の彼女をプロデュース」というのは名盤を作り出す重要なファクターだ。長戸大幸と坂井泉水とかね。ワゴンの中からこのCDを発見した時、「あー、そう言えばいたなぁ~」と思うと共に、このMIHOという女の子がDragon Ashの降谷健志の彼女で、このアルバムも彼がプロデュースしていたことを思い出した。
とりあえずダメモトで買ってみた。名盤だった。

●bird : bird -Limited Silver Edition- (1999/11/10)

彼女のことは一度だけ生でみたことがある。今から4年前に渋谷のクラブクアトロでTaiji All Starsのライブにゲストシンガーとして出演した時だ。
当時のblogには「ちっこくて可愛らしかった。本当に頭が鳥の巣のようだった」と書いている。まさかみうらじゅんの奥さんになるとは思わなかったけど、彼との人生は大変でもあり面白くもあるだろう。
MONDO GROSSOの大沢伸一プロデュースによる初期のアルバムはどれも良くて、実はこのファーストアルバムも持っている。
ただ僕がワゴンの中で見つけたのは色違いのシルバーっぽいジャケット。僕が持っているのはパープル色だから色が違う。
「あれれ、これは何だろう?」とリストを見たら、ボーナス8cmディスクがついていて、「Souls (Peach Bonus Mix)」というのが収録されていた。
「はて"bird"に初回限定盤なんてあったかな?」と思いつつ、100円だからいいやと買ってみた。
後で調べてみたら、これは1stアルバム「bird (1999/7/23)」の成功に気をよくしたレコード会社が、ドラマ『ピーチな関係』主題歌をボーナスディスクでくっつけて11月に発売した企画モン。birdは決してアイドル的な人気があるシンガーではなかったし、こうした企画モンが特に当たるという可能性もないので、当時おそらく最低限しか仕入れていなかったのだろう。こういうCDがあったこともすっかり忘れていた。
当時市場にそんなに出回っていないから、レアなことはレアだろうけど、Amazonならば中古が送料込みで341円で入手できる模様。

●Puffy – JET CD (1998/4/1)

プロデューサーの奥田民生がPuffyに出会った時、彼女らに言った有名な言葉がある。「お前らは鵜飼いの"鵜"だ」。
この言葉には二重の意味がある。一つは「俺の代わりにお金を集めて来い」。そしてもう一つは「俺のやれないことをやれ」だ。
この頃といえば、小室哲哉に代表されるエレクトリック・サウンドが全盛の時代だった。しかし奥田民生はロック色全開でノスタルジックなサウンドをお気楽に歌うPuffyという「鵜」を武器にして「反小室」とでも言うべき支持層を掴んでしまった。
ただおかしなことにデビュー作「アジアの純真」では、小室とまた違ったアプローチでエレクリックなサウンドを作り出している。
それもそのはずで、この曲というのは完全にエレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)に対するオマージュだからだ。最初聞いた時に「うわ、きたね~」と爆笑したものだ。

さてそんなPuffyのセカンドアルバムがこの「JET CD」。笑える「きたね~」が全開の名盤だ。
トップの「ジェット警察」はThe Whoの「Won’t Get Fooled Again」のパロディ。ギター、ドラム、ベースに至るまで、徹底的にThe Whoの演奏スタイルに徹している。

お次の「これが私の生きる道」(なんとモノラル録音!)は、The Whoの「Pinball Wizard」のギターリフをイントロにして、あとは初期のビートルズという無茶苦茶なことをやっている。

「これが私の..」「愛のしるし」「ネホリーナハホリーナ」「サーキットの狼」「渚にまつわるエトセトラ」「MOTHER」という6枚のシングルが収録されている点でも、草野正宗(スピッツ)、トータス松本(ウルフルズ)、奥居香(プリプリ)、井上陽水が作詞作曲陣に名を連ねている点でも、「きたね~」一枚だ。
考えてみれば、Puffyがやる気のなさそうなキャラクターで今なお世界規模で活躍していることも「きたね~」し、これが100円で買えることも「きたね~」と言える。

●My Little Lover – Evergreen (1995/12/05)

当時、ボーカルのAkkoは「エロい」と思っていた。このピュアな声の持ち主の"Akko"とは美人なのだろうか?そうでないのだろうか?その苛立たしさに似た気持ちが当時30歳の僕の脳内にはあった。
なぜなら巷にはなかなか彼女の顔を真正面からアップで捉えた画像や映像がなかったからだ。シングルのジャケットでも音楽雑誌の画像でも、彼女の顔をアップ気味で鮮明に写したものがなかったし、仕事がらテレビでお目にかかるチャンスもなかった。
あからさまであることが必須な時代にことさらに顔が隠されているということ。それこそが「エロい」!そんな風に考えていた。
挙句の果てにアルバムを出せばこれだ。小林武史の確信犯的犯行だったと思う。
小林武史が自分の愛する女性を世に知らしめたい、でも知らしめたくないような気もする。そんな相反する感情を持っていたのかどうかは知らない。だけど彼の愛情たっぷりのプロデュースワークはセオリー通りの名盤を生み出した。
爽やかな初夏の空気の中を疾走するような透明感やみずみずしいサウンド(リリースされたのは冬だったんですが...)に乗ってAkkoの声がどこまでも空高く浮遊してゆく....そんなアルバムだ。
このCDはhitomiセンセにKinki Kidsの"A Album"を100円で見つけてきたお返しに、彼女が見つけてきた100円CDだった。「名盤だから、もし見つけたら絶対買っておいた方がいいよ、もし2枚あったらついでに買っておいて」と言っていたのだった。