神田神保町にて

とある古書店に入る。
2、3度来たことのある専門書の店だ。

こっちの分野の本をチラ見し、そっちの分野をチラ見し、
あっちの分野の本をチラ見しているウチに、
どうも店の親父に「冷やかし」のお客と目をつけられたようだ。

決してそういうつもりはなくて、様々な分野における昭和30年代の子供図鑑を探していたんだけどな。
むろん教室に本棚に置いておくためだ。

まず腕を組んでじっとこちらを見つめている。
そして、僕が手にとって本を見ると、その数分後にその本棚に行って、
苛立たしく整理するということをやりだした。
「冷やかしならば早く帰れ」というサインだ。
参った参った。

こういう専門店ってそうなんだけど、直線的固定的に動かないお客は、
こんな風に、どうも冷やかしに思われる運命にある。
例えば、植物学の売場に直線的に進んで、
そこで丹念に見るというのが、正しい本探しの作法ということもあるのだ。

むろん希少品の多い古書店だからこっちも気を使って、在庫は大切に見ている。
何しろ学生の頃から慣れ親しんでいる街だ。

まあとにかくこういう動きが、親父は気に入らなかったようだ。

実は、こういうのが神保町の醍醐味だったりする。
店主の多くは、苦労して自分のお店の品揃えを成立させている。
いわば、人手に渡るまでは、間違いなく店主は一人のコレクターであり、
その在庫は店主のコレクションであり、誇りでもある。
それを斜めに見られることに苛立たしさを感じてしまったのだろう。
いささかこの人の場合は被害妄想っぽくなくもないが…..

こう考えるといいかもしれない。
彼らは、あなたが足を棒のようにして探しても見つからず、
ましてやAmazonなどでも入手不可能なようなレアな本を、
あなたの代わりにどっさり見つけてきてくれる人なわけだ。
その手数料が彼らの利益となっている。
そう考えると、ちょっとは納得できるのものがあるんじゃないだろうか?

無論すべての古書店がそういうわけではない。
ブンケンロックサイドのご店主や、先日紹介した富士レコード社さんなどは、実に丁寧な対応をしてくれる。
新店の登場などもあって、ここ20年の間に、神保町の店主の意識は変化してきたようにも思う。
むしろこの人は「昔ながらの古書店の親父」とは言えるだろう。
ちょっと語弊はあるかもしれないが、自分の売りたいものを楽しんで売っている人と、自分の売りたいものをぞんざいに見て欲しくない人の違いもあるのだろう。
いずれにせよ、現代的な視点でみる「お店とお客さん」という関係とはちょっと違う、不思議な関係が、まだまだ神保町という街は成り立っている。
少なくとも「お売り下さい」と「いらっしゃいませ」を連発する某古本チェーンの感覚で行くと、痛い目に遭う。

残念ながら、今回は「これ」という本が見つからなかったので、
親父の嫌な顔を背後に感じながら店を出てきた。
でも、また懲りもせず、この店には寄ることになるだろう。
嫌な顔されるかどうかはわからない。

この親父と意気投合するようになる日は、果たしてくるのだろうか?
バトルはまだまだ続く….