Winter Games

「ぜひ!」とお願いして、marthaさんから「Touch of David Foster」というCDをお借りした。80年代を代表するプロデューサーだったDavid Fosterのコンピレーションだ。
marthaさん、ありがとうございました< (_ _)>

この中にどうしても聞きたい曲があった。
それは1曲目の「Winter Games」。


1988年のカルガリー冬季オリンピックのテーマだ。

実はこの曲、関西FM802の交通情報のBGMだった。
これを聞くと「名神高速は天王山トンネルを先頭に下り10kmの渋滞」とか「阪神高速は豊中JCTを先頭に5kmの渋滞」というアナウンスまで思い出す。

これだけ書くと「ヘンなこと思い出すな、曲が台無しだ」と言われそうだ。
だけどFM802は、29歳で京都のCDショップに転職し、期待と不安の入り交ざった気持ちで働きだした時に、常に店内で流れていたラジオだった。

まだ仕事をこなすことすらできず、正面の真っ直ぐな狭い道しか見えず、指示されたこと、与えられたことを必死にこなそうとする、そんな自分の聴覚に「Winter Games」は1時間に1回のペース(いや、もっと少なかっただろうか?)で流れてきていた。

今、僕は「Winter Games」だけを何度も何度も流して聞いている。そうするとじわりじわりと当時の感覚が鮮やかに蘇ってくる。
「おい、こっちの壁のポスター貼り換えて!」
「はい!」
「表の自転車の整理忘れてるぞ!」
「はい!」
「売場の穴が埋まってないぞ!」
「はい!」
そうやって店内外を駈けずりまわっていた自分を思い出す。

正直言えば、それまでの僕は大きな企業のいち営業職として「大きな屋根の下」に護られている生活をしてきたと思う。また、そういう所に居た人間特有の「プライド」みたいなものもあっただろう。

そんなこんなで僕というヤツは店長によく思われていなかったようで、ずいぶんこき使われたものだ(笑)。

「これが俺のやりたかったことなんだろうか?」
この頃は、よくそんなことを自問自答していた。
大好きな京都の街で彼女と暮らし、大好きな音楽に携わる仕事に就けたのだという気持ちはとても脆いもので、今にも押しつぶされそうな中であがいていた。

でもここには「大きな屋根」などはないから、自分自身が主体性をもって闘わなければならなかった。ましてやここは故郷を遠く離れた京都なわけだし、自分が選んだ道なんだから自分自身とも闘わなければならなかった。

なんだか「包丁一本」みたいな話だけど「ここで辞めたらどんどん悪い方向へ行く」と思っていたし、好きな音楽に囲まれた仕事は、僕が背負う筈の重荷のいくばくかを軽くしてくれていたと思う。そういう中で「Winter Games」は何度も何度も流れ続けていた。「阪神高速神戸線は魚崎インターを先頭に...」

約1年半後、僕が店長になった時にFM802を流すのを全面的に禁止した。いま我々が売らなきゃいけないCDを流すという原点に戻すようにしたのだ。
だから、あれ以来「Winter Games」を聞くことはなかった。

久し振りに聞いた「Winter Games」は、そんなことを鮮やかに思い出させてくれた。

改めて音楽の力は凄いと思います。はい。