「食べログ」やらせ事件

ご存知のようにカカクコムが運営するグルメサイト「食べログ」の「やらせ投稿」問題が脚光を浴びている。不特定多数の投稿者によって行われている飲食店の口コミ投稿が、不正に悪用されたという問題だ。
飲食店から金銭を受け取り、その見返りとして好意的な口コミや評価を投稿し、お店の人気ランキングを操作する業者39社に対し、カカクコムは提訴も辞さない構えであることを公表している。

このニュースを知った瞬間に思い出したのは、昨年起こった「食べログ」アプリ炎上事件だった。

iPhoneの「食べログ」アプリは、近隣のお店を検索する上で大変便利だったので僕も愛用していた。ところが、ある時(確か6月頃だったと思う)のアップグレードを境に実質的に有料化されたのだった。この「実質的な有料化」というのが利用者の賛同を得にくいやり方だった。

GPSを使って検索された近隣のお店の検索結果を、今まで「評価の高い順」でソート(並び替え)できたのだけど、その機能が月額350円の有料会員にならなければ利用できなくなってしまったのだ。

これによりiTunes Storeの「食べログ」アプリの評価欄は炎上した。iTunes Storeの歴史上、はじめての炎上事件だった。
評価欄はカカクコムに対する非難で埋め尽くされた。
「使えなくなったアプリ」を僕も削除してしまった。

カカクコムの問題は色々あるけど、ポイントは以下の2点だ。
1:アップグレードという誤認しやすい手段によって、今まで無料で使えた機能が使えなくなり、機能を使うには月額350円を払わなければならなくなった。
2:投稿者が無償で提供してきた情報を、有料で販売した。

このうち2が、今回の事件と密接に関係していると、僕は思う。

無償で提供された情報を有償で販売してしまったカカクコムの行為は、開けてはいけないパンドラの箱を開いたようなものだった。「クチコミ情報には値段がつく」ということを「39社の業者」に気づかせてしまったからだ。これらの業者は「ダダで仕入れた情報を売るのであれば、こちらも有料で情報を作ってやる」ぐらいに思ったのは当然のなりゆきだろう。中にはアプリのアップグレードで被害を蒙ったことがきっかけで、この新しいビジネスを考えた輩もいるかもしれない。こういうのを「飲食店のSEO対策」と言うのかどうかはわからないけど....

実際、炎上したiTunes Storeの「食べログ」アプリの評価欄に「こうなったら人気のある店に辛口コメントを入れて、人気のない店に高評価を入れて、口コミの信頼性を滅茶苦茶にしてやる」という内容の書き込みを見たことがある。辛口コメントを入れられたお店にはたまったものではない。僕はこの時に「もう食べログの評価は信用できなくなったな」と思ったものだ。信用できない情報に堕ちてしまえば、いくらでも捏造は可能となる。

本来こういうオープンな形での投稿情報というものは、不特定多数の善意で行われている。まあ、中にはレビューを命かけて楽しんでいる人もいるだろうし、美味しくなかった腹いせに辛口コメントを入れてストレス発散したり、独断と偏見でサディストのように辛口コメントを楽しんでいる人もいるだろう。
でも大多数は「善意」に基づく自己表現として、こうした口コミコメントを書いている。

こうした「善意」を有料で販売しようとする行為自体は、営利を目的とする企業として「そういう選択もあり」なのかもしれない。
しかし、そういうことを平然と行ってしまった企業、ユーザーから反感を買った企業には「それなりの企業」がくっついてきてしまう、ということを自分の教訓にしたい。