音楽「栞」-おんがくかん- Vol.1 四谷天窓.comfort(高田馬場)、そして「栞色」

高田馬場の繁華街には入らずに目白通りから回り込む。街の外側に車を停めた。
だから会場の「四谷天窓」まで行くのに神田川を渡った。

あの歌の舞台になった正確な場所は知らない。だけどこのあたりにはあの歌の雰囲気が残っていると思った。「四畳一間の小さな下宿」もありそうだし、「銭湯」もありそうだ。きっと周辺が専門学校と大学が並ぶ学生街だからなんだろう。

高校三年の夏、嫌々ながら通った夏期講習の予備校はこの川のあたりにあった。駅からは「さかえ通り商店街」を進んだはずなのだけど今あるような活気は感じなかった。寂れた通りを歩いたという記憶しか残っていない。きっと高校生が夏期講習に通う時間には、まだこの通りはひっそりと朝の眠りについていたのだろう。

今回は音楽ユニット栞さんの初主催のイベントで、ファーストライブ「栞色」のリリース記念ライブとなる。「共演が本当に凄い方ばかりなんですよ、今から心臓バフバフ」と事前にしぃさんに言われていたので楽しみにして行った。

会場の「四谷天窓.comfort」は山崎まさよしもプレイした伝説のハコ。物販コーナーにゆくと....記念のファーストアルバムがあるある。

ジャゲ買いしたくなるデザインは「栞」とは何か?っていうことを一発で表現している。デザイナーとしてのしぃさんのセンスが光っていると思う。しぃさんがこうしたビジュアル面、くりっちがサウンド面を分担しているから、いいものが生まれたはずだ。何よりも1年以上アルバム制作に四苦八苦しながら格闘していたことをblogとTwitterで知っている。だからスタッフの分を買い込む。

そしてステージが始まった。
rough mellow
千春ちゃん(vo)、真さん(Ag)によるアコーステイック・ユニット。
アコギのシンプルなサウンドに千春ちゃんがソウルフルかつブルージーなボーカルを縦横無尽に繰り出してくる。
ボーカルがしっかりしているから、たとえシンプルなコード進行の曲でも交響曲のような深みが感じられた。

2次会で千春ちゃんとは色々お話ししたけど、とてもいい子でした。

【Vutter(バター)】
グランドピアノのあるハコだけに、キーボードプレイヤーの登場。
主題(モチーフ)が明確でわかりやすく、かつ情景的な音楽を紡ぎだしてくれるピアニスト。そのテクニック....左手が動く動く...あんぐりしながら聞き入った。

時にはジャジーに、時にはクラシカルに、そしてロック的なダイナミックなリフをくりだしてくる。この3つを均等にぶっ放せるピアニストって知っているようであまり知らない。

ステージの後半、vutter (pf)、竹内章人(vn)、くりっち(ag)という組み合わせでインストゥルメンタル曲を2曲プレイ。かっこいいんだ、これが。
Vutterさんとは2次会の席上でロシアのピアニスト、ニコライ・カプースチンのことを教えて頂いた。

【栞】
ご存じ癒し系フォーク&ロックな男女ユニット。
ステージでしぃさんが飲んだ水の量をみればわかるとおり、最高の共演者をセレクトする中で自らに思いっきり高いハードルを課した栞だったけど、1+1+1は3にもなれば4にも5にもなる。

今回の栞は過去に僕が見たイベントの中で、一番ベストのステージを見せてくれた。ただそれは何か背伸びしたり今回に向っての血のにじむような努力の結果というものではない。普段の栞が思いっきり「遠慮なく」出ていたという表現が正しいと思う。しぃさんのボーカル、くりっちのギターの両方がサエていたの事実だけど、いつものように温かみのある毛布のようで、相変わらずの夫婦漫才に楽しそうで、サウンドはしっかりと支えられていて、それがトータルでハードルをあっさり越えてしまった....もうこれは「経験の積み重ね」というものなんだろう。

考えてみれば今回の栞は本当に大変だったと思う。アルバム制作のみならず初イベント主催を同時進行で行った。マスターテープが完成してプレスに回したのはギリギリ一週間前だった。そんな中で出演者同士の打ち合わせを行い、練習を行い、セッションを行った。でもこれをこなして振り返れば、こんな苦労は滅多にないと思うし、次には「何てことないもの」になるのだろう。

(栞+rough mellow+竹内(vn)のセッション)
後でくりっちに「凄くいいイベントだった」という話をしたら、くりっちは「もちろん!」と誇らしげに答えてくれた。
イベント主催の苦労がわかる者同士に通じるもがそこにはあった。

そんなわけで、いまこれを打ちながら「栞色」を聞いています。
ギターインストの「開花」から始まる11曲。しぃさんのボーカルは思いっきり前に出てるし、サウンドは緻密だし、可愛いカッコよいし、「あの曲もこの曲も」初CD化されているし、小技もSEも遊び心もきいているしで宝物をひっくり返したようなアルバムには今の栞の「色」が詰まっています(あとくりっちのエレキギターすげー)。