シャルル・ド・ゴール空港 第1ターミナル探索記

フランスに到着して、いきなりこの洒落た建物は反則だと思ったのが、パリ=シャルル・ド・ゴール空港の第1ターミナル。
シャルル・ドゴール空港第1ターミナル
コンパクトに見えるけど直径は150mぐらいある。レトロフューチャーとでも言うのかな。大阪万博と共通する”1960年代末からみた未来”みたいな匂いがプンプンしていた。竣工は1974年。
シャルル・ド・ゴール空港 空中写真
(Google Mapの航空写真)
着陸した飛行機はサテライトに駐機するまでの誘導路として、この円形の建物の周囲をぐるりと回る。延々とこの風景が続くので早く入国したいという気持ちはじりじりと高まってゆく。
シャルル・ドゴール空港 第一ターミナル
これって「飛行機の盆踊り」だと思った。盆踊りではやぐらの周りをぐるぐる踊らされる。それによって人々は次第に高揚し、やがて陶酔する。
それは乗客も一緒だ(多分)。

さて、ようやくサテライトに到着すると、今度はトンネルがお出迎えだ。
先ほどの誘導路の地下をくぐって、第一ターミナルまで続いている。
シャルル・ドゴール空港第一ターミナル サテライトとターミナル間の動く歩道
真っ白なトンネルは静寂の空間で、まるで神社の回廊のよう。今さっきまでの高揚感をすべて洗い流して、人間の心を無にしてしまう。
なんなんだ、この演出。
シャルル・ドゴール空港第一ターミナル サテライトとターミナル間の動く歩道
「人はここを通る度にすべての煩悩を捨て去り、神と対峙するのである」なんてナレーションが流れてきそうだ。
シャルル・ドゴール空港第一ターミナル 地下トンネル
ところがどっこい、この先に待っているのは神様じゃない。鬼より怖い入管審査の係員だ。ある意味、彼らは無我の境地のような人種と言えるでだろう。愛想もなければ笑顔もない。こちらが笑顔で「ボン・ジュール!」と言っても、無表情でこちらの顔とパスポートを照らし合わせるのみ。
そしてポンとハンコを押す。まあいい、これで晴れて入国だ。
シャルル・ドゴール空港 入国審査
入国審査窓口の写真は撮影していないけど、横目にみえた空港内の空調設備があまりにもかわいかったのでカメラにおさめた。
なんだこのデザインセンス。1974年当時のものに間違いない。
シャルル・ドゴール空港の空調
さて地下トンネルを通ってきたにもかかわらず、この入国審査フロアはターミナルの4階にあたる。ターミナルの建物は1階から3階ぐらいまでが半地下構造になっているから、こういうことになるわけだ。
さらに5階までエスカレーターで上がって荷物を受け取るのだけど、ここでチラっと見えたのが中庭吹き抜けのエスカレーター群だった。
シャルル・ドゴール空港第一ターミナルエスカレーター
もう何てカッコ良さなんだろう。大阪万博の動く歩道とか手塚治虫の描いた未来都市のような風景だった。
手荷物を受け取ると、再び3階出発フロアまで降り(到着フロアの方が上階という構造は世界の飛行場でも珍しいらしい)、円形のターミナルをぐるぐると歩いてAVISレンタカーの窓口で手続きを済ませ、今度は8階の駐車場まで昇って車に乗った。もう何がなんだかややこしい。
シャルル・ドゴール空港のエレベーター
これは余談だけど、駐車場の出庫方法が謎だった。
父の運転で出口ゲートにたどりついてみたら、カードを入れなければバーは上がらない構造になっている。
だけどそんなカードはAVISの窓口で貰ってないし、駐車料金を精算できる機械もない(そもそも払う理由がない)。そのうちに後ろの車からクラクションまで鳴らされてしまうし、バックもできない。
こうなったら強行突破するしかないと、手動でゲートを持ち上げて父に突破させた。
入国早々に敵対行為を行ったことは申し訳ないと思うが「レンタカーでシャルルドゴール空港第一ターミナル駐車場から出られない危機」なんて、人生に起こりうる危機の中で想定したこともなかった。帰国後に調べてみたのだけどいまだに正しい出庫方法がわからない。

(第一ターミナル内のぐるぐる道路を体験してみよう)
駐車場を出ると、この道をぐるぐる回って高速へと進む。秘密基地から出動する感覚。

それから一週間後のこと。
シャルルドゴール空港 第一ターミナル 車窓から
何とか洪水の影響を避けながら再びここに戻ってきた。
さらにリスボンへと向かう両親を第二ターミナルまで見送った後、自分に残されたのは帰国便の離陸までの4時間という時間だった。
チェックインやお土産を買う時間を考えると中途半端な時間ではあるので、第一ターミナルに戻ってのんびりすることにした。

第二ターミナルと第一ターミナル間は「CDGVAL」という無料の交通システムで結ばれている。所要時間は7-8分ぐらい。
CDGVAL
第一ターミナル駅に到着して見上げてみた。先ほど車で通った道路もここから見るとスマートに見える。
シャルルドゴール空港 第一ターミナル
このような巨大建造物にもかかわらず、不思議と威圧感は感じられない。
シャルルドゴール空港 第一ターミナル
いま自分がいる場所は1階だ。下の画像で青空との境となる水準点が飛行機がぐるりと回っていた地面にあたる。だいたい建物の1~3階部分が半地下に収まっている。
SNAVEBさんは下水道などの清掃業者なのだろうか?何やら大がかりな作業をしていた。車の右手に見える通気口のデザインにも注目だ。
SNAVEB
各フロアには小銃を持った兵士がうろうろしていた。
シャルル・ド・ゴール空港 警護の兵隊
これは第二ターミナルで見かけた兵隊。
ミリタリーマニアな知人にこの画像を見せたら「そうなんだよね。フランス兵のベレー帽は左に傾いているんだ」と思わぬ反応がかえってきた。
シャルル・ド・ゴール空港 小銃を持った兵隊
チェックインを済ませて身軽になったところで。3Fの出発ロビー外へ出でみた。
白い地下トンネルは、ここでは空中通路となって建物の4Fへ向かっているのがわかる。
シャルル・ド・ゴール空港 3F

(このフロアをぐるぐるしてみよう)

美しいお姉さんがいたので失礼して一枚。
シャルル・ド・ゴール空港 第一ターミナル3F
築40年を過ぎているので、少しずつリフォームしているようだ。このガラス張りの入口と看板は新しいもの。フォントがカッコいい。
第一ターミナル入口の看板
いよいよ吹き抜けとなっている中庭へと移動する。
シャルル・ド・ゴール空港第一ターミナル中庭
ちょっと小腹がすいてきたので、PAULのパン屋で愛想の悪いアルジェ系黒人のお姉さんからパンを買った。オレンジーナは世界のどこで飲んでも美味しいのだ。
中庭で昼食
これだよこれ。これが見たかったんだ。
シャルルドゴール空港 吹き抜けのエスカレーター
もう大胆と言うべきか、やりすぎと言うべきか.....
シャルル・ド・ゴール空港第一ターミナル 吹き抜けのエスカレーター
スマホで設計者を調べてみた。ポール・アンドリューという人。彼は「これ」がやりたかったに違いない。
シャルル・ド・ゴール空港第一ターミナル 吹き抜けのエスカレーター
近くのテーブルではイスラム系の人が大声でニコ生みたいな動画配信やっている。
斜め前の喫煙スペースではどこかの機長らしき人がタバコで一服している。
「あーっ、フライト後の一服はうまいぜ」とか思っているのだろう。
ガラス越しにPAULのお姉さんがトレイを片付けているのが見える。
僕はここで油を売っている。
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帰国後、この第一ターミナルを舞台にした映画「パリ空港の人々」というのを見てみた。
パリ空港の人々
主人公のアリチェロは、カナダとフランスとの二重国籍の学者で、スペイン人の妻とイタリアに住んでいる。そんな彼がカナダの空港で居眠りしている間にパスポートと荷物一式、そして靴までも盗まれてしまう。とりあえずシャルル・ド・ゴール空港まで戻ってきたものの入国管理局によって足止めを食らった彼は、身元確認が取れるまで第一ダーミナルのトランジット・ゾーンで暮らす羽目になる。
パリ空港の人々 入管審査
(入管審査窓口)
トランジットゾーンには同じ境遇の「国籍不明者」たちが共同で暮らす謎の一室(「トランジット客待合室」と扉に書かれている)があった。
ここでアリチェロと彼らの不思議な共同生活が始まる。
パリ空港の人々
第一ターミナルの裏の裏まで知り尽くした彼らの生活が面白い。滑走路に生息するウサギを狩ってレストランに売ることで生計を立て、職員通路を駆使して密入国し、売店で食料を買ったり、職員専用(?)のシャワー室を使ったりする。時には警官から逃れて地下の貨物室へ逃げ込んだりする。
貨物室へのスロープ
(地下貨物室へのスロープ)
なるほどトム・ハンクス主演の「ターミナル」の元ネタってこれだったのかと思いながら見ていたわけだけど、あちらがアメリカ的ヒューマニズムで仕上がっていたのに対して、こちらはフランス映画ならではのクールさとコミカルさの融合が秀逸だった。
パリ空港の人々
タテマエとホンネ社会の狭間で生きようとする人たち、彼らはこの円形の建物の中でぐるぐると回り続ける。そんな彼らを不思議な空気で包み込む第一ターミナルの建物、これもまた重要な出演者としての役割を果たしている作品だった。
第一ターミナル
1993年に制作されたこの映画は、実際に行き場を失った難民として16年近くにわたって第一ターミナルに住み続けたーハン・カリミ・ナゼリという人物がモデルなのだそうだ。
彼の人生に関してはこの世の奇妙なものばかりを追い続ける佐藤健寿さんの記事「16年間、空港で生活する男」「16年間、空港で暮らす男がついに搭乗ゲートへ – 視察番外編」に詳しい。