The LoseBeat live at Blue Jay

音楽の幅の広さとか、奥の深さには、いつも驚きの連続なのだけど、この世には
The Beatlesのコピーバンド(カバーバンド、トリビュートバンド、あるいはなりきりバンド)」というジャンルがある。

コピーバンドといっても、単にBeatlesの曲をレパートリーにしているというだけじゃない。
そのファッション、楽器、演奏スタイル、ボーカルスタイル、ステージ上の動作、そのスピリッツに至るまでを忠実に再現し、その再現度の高さを競いあっている。再現度の高さがバンドの評価に繋がっているのは当然なんだけど、ファンにとっては1度しか来日したことのないBeatlesの貴重なバーチャル体験につながっている、というわけ。

実はその歴史はとっても古かったりする。日本では昭和39(1964)年に9月に「抱きしめたい」をリリースした「東京ビートルズ」が最初だとされている。いま聴くと日本語訳の歌詞はヘンだし(訳詩者はあの漣健児)、リズムがロックのノリではなく、ジャズのスィングをしているのも妙なのだが、完成度はまあともかくとして、本家本元のデビューからわずか1年11ヶ月後にこういうバンドが登場したことは評価していいと思う。

昭和48(1973)年には、後にオフコースに加入する清水仁、廣田龍人(竜ちゃんたちの間で"はリッキーさん"と呼ばれているその人だということに、この項を書いている時に気づきました。竜ちゃんたちの間では「日本のジョン・レノン」と言われているそうです)らによる「コピートルズ」のThe Bad Boysがデビューしている。なぜか吉田拓郎作曲の「ビートルズが教えてくれた」という拓郎色バリバリ全開のシングルもリリースしているが、翌年には徹底したBeatlesのカバーアルバム「Meet The Bad Boys」をリリースしている。今聴いてみると「Love Me Do」のイントロは崩れているし、ポール役のボーカルがどう聞いてもジョージ役にしか聞こえない、というのはあるけど、カバーに徹する事の面白さやスリリングさを提示した点で、画期的な一枚だったと思う。

さてここからが本題。竜ちゃん(と言っても僕より一才年上なわけだが)がJohn Lennonを担当する「The LoseBeat」というBeatlesのコピーバンドがある。何しろ結成から18年のベテランで、今では「日本タレント名鑑」に毎年掲載され、「コピートルズ」業界では有名な存在。演奏依頼がガンガン入ってくる実力派バンドだ。

そのLoseBeatのライブが戸部のライブハウス「Blue Jay」で行われるので、キタさん、アニキと行ってきた。
Blue Jay
テーブル席で70名ほど入れる会場はすでに満員で、ロフト席までぎっしり埋まっている。ワクワクしながら待っていると、「Cry For Shadow」にイントロとともに幕が下がって(このライブハウスでは幕は「下へと落ちる」のだ)、ステージが始まった。

揃いのベストにYシャツというこの姿は、音声付の映像では現存する最古のモノと言われるCavern Clubでのライブ映像(1962)を模したもの。この格好を見ただけで、44年も昔のあの穴倉に戻ったような錯覚を起こすのだから、僕も確実に病気なようだ。
Cry For Shadow

楽器も徹底している。竜ちゃんはリッケンバッカーの325、George Harrisonの久保さん(通称久保っち?)はグレッチのテネシアン(だと思う)、Ringo Starrの杉沢さん(通称あんちゃん)のドラムはラディックだ。Paul McCartneyの鈴木さん(通称スッチ)はカールヘフナーのバイオリンベースを左利き仕様でプレイしている(スッチは本当に左利きらしい)。実はこれだけでも莫大な金額になるのだが、コピーバンドにとってはこれは基本なのに違いない。

いきなり「Cry For Shadow」ではじまるというのもマニアックな話。これって正式デビューより一年前の無名時代のビートルズがドイツのハンブルグで「たまたま」録音したインストナンバーなのだ(オリジナルアルバム未収録)。

まあ、そんな感じでThe Beatlesの世界へと引き込まれていってしまった。トークも絶妙で面白く、とりわけ竜ちゃんのトークは奥さんと娘さんと一緒に教室へ来る時の「パパの竜ちゃん」とは思えない程軽いものだった。ところで竜ちゃんのギターを弾くポーズだが、左足を若干開いて弾いている。
竜太郎レノン
そう。これもジョンのクセなのだ。

その後も「Ticket To Ride(×恋の片道切符○涙の乗車券)」「She Loves You」「No Reply」という感じで楽曲が続いて1部が終わった。

2部は趣向を変えて、Beatles東京公演の再現だ。プレイが始まった瞬間に観客からどよめきが巻きあがった。

何と、ドラムをRingo Starrその人が叩いているではないか。
060624_2031~01.jpg
060624_2035~01.jpg
僕はホンモノに出会えた緊張となぜか笑いのために、カメラがブレてしまったが(詳しく見たい方は、Ringoとコラボレイトしたドラムの"あんちゃん"のblogを参照のこと)、あれは間違いなくRingo Starrだった。現在66歳のはずで、見た目より40歳ほど若く見えるけど、あれは間違いなくRingoなのだ。少なくともここで熱狂している観客の皆さんはそう信じているはずだ。Ringoのドラムプレイをもっと見たかったのだが、「暑い、もう無理」という不可解な理由で3曲で退場してしまった。なお、彼らが着用しているスーツとシャツも東京公演の衣装を再現したもの。わざわざオーダーメイドで作ったものらしい。

途中のMCで竜ちゃんが「彼らの来日40周年を記念してやります」と言った。Beatlesは1966年の6月29日に来日し、30日から7月2日まで5回の公演を行っている。当時生まれて半年の赤ちゃんだった僕は、洋楽が好きだった母に抱っこされながら、TVで観たという「言い伝え」が僕の家にはある。

そして高校生のとき、バンドで始めてやった曲が「A Hard Day’s Night」と「Back In The U.S.S.R.」だった。たまたまこの日が1981年の6月29日か何かで、僕はステージで「来日15周年を記念してやります」と言ったのを覚えている。そうか、あれから更に25年がたってしまったのだなぁ。

2部の曲順はこうだった。東京公演の全曲再現だ。
1. Rock And Roll Music
2. She’s A Woman
3. If I Needed Someone
4. Day Tripper
5. Baby’s In Black
6. I Feel Fine
7. Yesterday
8. I Wanna Be Your Man
9. Nowhere Man
10. Paperback Writer
11. I’m Down

続いて3部は、これまた趣向を変え、サイケデリックファッションに身を固め(おいおい、時代が違うぞ)Paul McCartney&Wingsのヒットチューンをプレイした。竜ちゃんはといえば、バックコーラスでお姉さんと並んでRobert Plant(Led ZeppelinのVo.)の格好で歌っていた。何でRobert Plantなのかは竜ちゃんしかわからない。
060624_2238~01.jpg
それにしても「Jet」「Band On the Run」「Coming Up」なんて曲は生演奏でやるには難しい曲のはず。それをこなしてゆくのは凄いなぁと感心しながら、聞いていた。

最後「Rockshow」で盛り上がり、ライブが終了したのは、22時だった。

このあと、竜ちゃんに誘われて、ファンの方々と上の焼肉屋さんで飲み、帰宅したのは午前4時だったのだが、この話はまた今度。

「なりきる」ということは本当に難しいことだと思う。そういう意味では「あのBeatlesになりきる」、というのが今の音楽界で一番難しいのではないかと思う。ありとあらゆるファンは彼らの音楽をすでに深く聞きこんでおり、彼らなりの「こだわり」や「見解」を持って聞きにくるからだ。よっぽど自分のペースでやった方が気楽だ。たとえば僕がアコーステイックギター一本で自己流の「抱きしめたい」をやっても、文句は言われないだろう(別の意味で文句言われるかもしれないけどね)。

演奏を聞いていると、メンバーがそれに応えて彼らの奏法とボーカルスタイルをとても深く研究していることがよくわかる。それどころか、わざわざ日本公演の演奏はそれらしく演奏しているのだから、驚きだ(あえて言えば、ホンモノよりも演奏が上手い)。こういう細かいワザの積み重ねがきっと彼らを魅力的なグループにしているのだろうと思うし、今後ももっと積み重ねてゆくのだろうな、と思った(とっても大変なことだと思いますが、これからも楽しませて下さいね)。

最後に一緒に行ったビートルズを知らないアニキが、「ビートルズいいですね。僕も聞いてみようかな」と。
おおっ、伝承音楽成立か?

この日の観客サイドからのレポートは「Jamesの独り言 – ルーズビートな夜」も参照願います。

ライブレポ

Posted by spiduction66