目に見えないこと

今から4~5年前の話。
子供を連れて上野にある国立科学博物館へと行った。

たぶん新館の建物だったと思うけど、子供たちが実験装置を操作して科学に親しむ、というコーナーがあった。
たとえば滑車やてこの原理を使って、自分の体重よりはるかに重いものを動かすコーナーがあるかと思えば、腕時計を壊しかねないような強力な電磁石で、さまざまなモノを引っ付けたりするコーナーがあったりする。ジャイロコンパスで姿勢を制御する仕組みなんてのもあったな。

日曜日ということもあって、大勢の子供たちが狂乱状態で騒いでいた。そうした中を、ボランティアの方々が、忙しそうに子供たちへ装置を操作方法を説明していた。

そのボランティアの方の中にTVで見慣れた人がいるのに気づいた。

「横田滋さん?」

そう、北朝鮮に娘のめぐみさんを拉致された横田滋さんその人だった。

横田さんはボランティアの服装で大勢の子供たちを相手に、計算機(コンピューター)の基礎を教えてくれる装置の横に立って、ひとりひとり子供たちに操作の仕方を教えていたのだった。

他のボランティアの方に「あの方は横田さんですか?」と尋ねてみると、「そうですよ。もう何年もここでボランティアをされているんです。私たちみんなあの方のことを応援しているんですよ」。とのことだった。

当時すでにマスメディアで横田さんの顔を見ない日はなかった。
そんな多忙な筈の「渦中の人」が、休日を使ってこのような場所でボランティアをされていることに、驚いた。

たまたま僕だけが知らなくて、マスメディアでは紹介されていたことなのかどうかはわからない。
わからないけど、そんなことはどうでもいい。

娘の番が来て、横田さんに直接装置の操作方法の説明を受けたのだが、横田さんは本当に一生懸命で、しかも子供と接するのが楽しそうだったのだ。

感動した。凄い人だ、と思った。

普段、我々はTVを見ているにもかかわらず、見えていないことが、沢山ありすぎる。
でも、そういう見えない所に物事の真の重みを感じてしまうことがある。
横田さんの熱心な姿がまさにそれだと思った。

月並みな物言いしかできませんが、事件の早期解決を祈ります。

2020/6/6追記
横田滋さんは2020年6月5日にご逝去されました。心よりお悔やみ申し上げます。