世界最古の録音

エジソンと蓄音機(1987年改良時の写真)音を記録する機械...「蓄音機」を発明したのは、トーマス・アルバ・エジソン。

このプロトタイプが完成したのは1877年12月6日のことだった。

当時のレコードは現在のような円盤型ではなく、円筒型のものだった。

エジソンは完成したばかりのこの機械で、早速「メリーさんの羊(Mary had a little lamb)」の録音に成功している。

残念ながら、この記念すべき録音は現存していない。録音と再生を可能にするため、円筒にワックスを塗っただけの蝋管レコードは、おそらく経年劣化でひび割れて、四散してしまったのだろう。
(作者追記、これを書いた際はうっかりしていたが、良く考えたら初期のシリンダーは錫箔をシリンダーに巻きつけたものだったので、「蝋管」ではない。ワックスも何もないわけだ。なお、Y.Shimizuさまのご指摘によると、このエジソン録音「メリーさんの羊」の金属の断片が、ニューヨーク州シュラキュース大学のアーカイブに保存してあるらしい。エジソンが自動車王ヘンリー・フォードに譲ったもの、というもっともらしい由来もついているそうだ。しかしくだんの金属片を保管しているアーカイブでもこれが本物とは信じていないらしい。いずれにせよ後世の科学の発展を待つしかない話のようだ)

現在エジソンの「メリーさんの羊」として聞けるものは、しばしば「最古の録音」と誤解されているが、後年(一説には1927年)に録音しなおしたものだ。

この録音は音質もよく、スクラッチノイズもない。またエジソンの声も発明当時の30歳ではなく、明らかに老人の声だ。

さて、エジソンが蓄音機(正式名称は「フォノグラフ(Phonograph))を発明した2ケ月後の1978年2月、フランク・ランバートというタイプライターの製造業者が、エジソンの原理を利用して「Talking Clock」なる機械を発売している。

この機械を再生すると、フランク自身の声で「1時です、2時です、3時です」と流れる....

「しゃべる時計」が実用的だったかどうかは別として、このフランクの声こそが、現存する世界最古の録音。

「Talking Clock」は最初から再生だけを目的とした機械だった。したがって。フランクの声が保存されている部分は丈夫な材質(着脱式の鉛の筒)でできており、それが経年劣化を防いだ。

127年たった今でもフランクの肉声を聞くことができるのは、そんな理由から。

英語サイトだが、くわしくはFrank Lambert’s Talking Clockをご覧下さい。ここではこの歴史的な録音も聞くことが可能だ。

クリスタル・パレス(水晶宮)では現存する最古の音楽録音は?という話なのだが、現存する録音記録をたどってゆくと、117年前までさかのぼることができる。

1888年7月29日、ロンドンのクリスタル・パレス(水晶宮)でヘンデルのオラトリオ「エジプトのイスラエル人」が上演された。

出演者4000名という荘厳なコーラス。この実況録音が現存する最も古い音楽録音。

エジソンが発明したフォノグラフの英国のエージェントだったカーネル・ジョージ・ゴーラウドという人物が、90メートルほど離れた場所から録音に成功した。もちろん、まだマイクなどない時代のこと。

実際この音を聴いてみると、スクラッチノイズのむこうに、かすかにコーラスらしき音が聞こえてくる程度。

でもそこには117年前、19世紀末、シャーロック・ホームズと同じ時代のロンドン、水晶宮の空気が凝縮されている。

このレコーディングに関する記事は「The 1888 Crystal Palace recordings」は最も詳しい。ここでは実際の音も聴くことが可能だ。

今から13年ほど前、エジソン・フォノグラフなどの19世紀の録音音源に興味を持った僕は、大阪難波のレコード店をしらみつぶしに歩いて、ようやく3枚組のレコードを購入したことがある。

現在ではGoogle師匠にお伺いを立てるだけで、当時の音源を無料で公開しているサイトにめぐり合うことが可能だ。いい時代になったものだ。
http://www.tinfoil.com/
「最古の録音」はここでも聴くことが可能。
http://www.loc.gov/rr/record/
日本にもここのように統一的に音楽の保存につとめる機関が必要だと、僕は考えている。

追記:2008年3月28日、「世界最古の声が復元された」という報道が世界を駆け巡った。
わずか10秒足らずの”Au Clair de la Lune”。
「恐ろしいほどの」ノイズの向こうに人間の...しかも抑揚のある...歌声が聞き取れる。
phonautograph(フォーノトグラフ)というその装置を発明したのはフランス人のレオン・スコット。1857年のことだった。
音の振動を豚の剛毛で作られた針で、すすを縫った円筒に記録するという装置で。音による振動を記録するという装置だった。この原理は20年後にエジソンが考案したものと、何ら原理はかわらない。ただしこれはあくまでも視覚的に記録するという装置で、再生するという機能はなかった。今回復元したのは、この記録紙から最新の技術で音声を「復元」させたもの。
この音声は1860年の4月9日に「記録」された。なんと150年も昔である。
聞きたい人はこちら(First Sounds “Edouard-Leon Scott de Martinville’s Phonautograms“)