今日のわんこ

教室の入口でレッスンに来た女子高校生の生徒さんがなんだか躊躇している。
「どうしたの?」と行ってみると、
「犬が.....」と彼女。
見ると小さな可愛らしい犬が後ろにいる。
ビルの4Fの廊下で犬を見るとは思わなかった。
「一階のロビーにいた犬で、一緒にエレベーターに乗ってきちゃったんです」と困惑する彼女。
「犬もボイトレ習いたいのかな?」と言う。

とりあえず彼女には教室に入ってもらい、一階までおろすことにした。
賢い犬で、エレベーターの扉が開いたら自分からそそくさと乗り込んだ。
「お前、どこから来たんだ」と尋ねると、
つぶらな瞳でじっとこっちを見ている。
一階のエレベーターを降りると、自動ドアから外へ出ようとする。
とりあえず犬についていってみることにした。
犬の帰巣本能に従うしかないと思ったのだ。

すると裏手の駐車場へ行き、いきなりおしっこをした。
「何、お前おしっこがしたかったのか?」
犬は返事もせず、つぶらな瞳でこっちを見ている。
犬は駐車場の奥の方へとどんどん進んでゆく。
「おいおい、どこに行くんだ」
11月の寒空の下、犬について歩いている自分。
なんでこんな状況になっているのだろう、と思案する。

そうするウチに1台の車の前で立ち止まった。
このままにしておくわけにもゆかないので、
抱っこしてとりあえず教室に連れてゆこうとしたが、
ちょっと歩き出すと嫌がる仕草する。
そして再び同じ車の前へ戻り車の前にちょこんと座っている。
あるいはこの車の持ち主の飼い犬かもしれない。
「ちょっと待ってろ、絶対に動くなよ」と言うが、
犬はつぶらな瞳でこっちを見ている。

一旦4Fに上がり、管理会社に電話しようとすると、
話を聞いたEmiさんに尋ねられた。
「もしかして、その犬はパピヨンじゃないですか?」
「犬の種類を俺が知るわけないよ。ちっこくてモサモサしていて茶色と白い犬だよ」
「それならばパピヨンです」
「パピヨンって蝶のことじゃないの?」
「そういう犬がいるんです。
それならば3Fのダンススクールのオーナーさんのワンちゃんです」
「そうか!情報ありがとう!サンキュー!」
といってダーッとエレベーターで降りる。
そうしたら、ぱったりダンススクールのオーナーさんが、
駐車場からくだんの犬を連れて戻ってくるのに出くわした。
「お~よかった、飼い主を探していたとこだったんですよ」
「それはそれはすいませんでした」
「ウチの生徒さんに付いてきちゃったみたいでして」
「ああ、この子は自分の気に入った人についていっちゃうんですよ」
犬はつぶらな瞳でこっちを見ていた。

というわけでこの話は一件落着。
自分の気に入った人についていっちゃう犬に、
ついていっちゃう人間がいたというのがオチだ。