アナログと温泉と共産党

昼過ぎ、見覚えのない番号から電話がかかってきた。
怪訝に思いつつ電話をとると、明日から宿泊する山形の温泉宿の女将からだった。

「実は大切なことをお伝えしてなくて....」

この切り出しにはちょっとビビる。
過去に長野のペンションでダブルブッキングされてしまい、宿替えさせられた経験があるからだ。

女将は続ける。
「実は...明日でアナログ放送が終了してしまい、こちらは電波が届かないのでテレビが見れないのです」

ああそうか、東日本大震災の影響で、東北の一部地域ではアナログ放送終了が延期されたんだっけな。
宿泊する宿は山形だけど、とてつもなく山奥の秘境だ、デジタル波が届かないのだろう。
あるいは震災の影響で設備投資ができないのかも。

なおさら秘境感が満載でいいではないか。

「ああ、全然かまいませんよ。何もしないですみますから」
とお返事した。

この温泉、歴史に残る秘境宿でもある。
1926年(大正15年)12月4日、極秘のうちにここで日本共産党第3回大会が行われた。
国家の弾圧で解党寸前だった共産党はここで組織の再建を行い、段階的に革命を起こす決議を行っている。
このことは松本清張「昭和史発掘」の「三・一五共産党検挙」に詳しい。

電波が届かない、温泉である、一軒宿である、非合法組織の会議場所だった.....

こんな前振りがあると、ワクワク感も満載だ。
今晩、夜行運転で山形に向かいます。