劇団横綱チュチュ公演「海月」

ようやくWinter Liveの映像作品も完成し、ひと息ついている管理人です。

先週の土曜日(23日)は劇団横綱チュチュの公演「海月(うみづき)」へ杉田劇場行ってきました。
チュチュは磯子を中心に活動しているアマチュア劇団で、毎回クオリティの高い演劇を見せてくれます。
毎年この時期に定期公演をするのですが、今回は記念すべき10周年公演でした。

「海月」今回は幻想的な世界と現実の世界が交錯する話だったのですが、創ることのできた未来、創ることのできなかった未来とが次第に明らかになっていく中で、「結局未来を創るのは自分自身である」という強いメッセージが込められていました。

なーんて書くと小難しそうなストーリーなっちゃいますね。
ネタバレしないように書きますが、「汐音」というこの世のものではない一人の少女の魂と母親との情愛が実に泣ける素敵な作品でした。チュチュの過去の公演の中では、一番好きなものになったと思います。

さて、話はここから些末なことに移ります。

「海月」の中にこんなシーンがありました。
「汐音」….この世のものではない一人の少女….が「あーした天気になぁれ!(だったかな?)」と自分の履いているビーチサンダルを堤防の上から砂浜に蹴り飛ばすシーンがあるんです。

そこで奇跡が起きました。サンダルが見事に横向きに立っちゃったんです。

普通は表か裏になるでしょう。僕だった生まれてこの方、サンダルが立ったところは見たことがない。
でも舞台の上の草履は立っているんですよね。もちろんCGじゃありません。

一瞬観客が「おおーっ」てどよめきました。
そこを女の子は関せずに「曇りだぁ~」ってセリフを続けてゆきました。

僕はこのシーンを見た瞬間に二つのことを思いました。
劇団横綱チュチュ「海月」
ひとつは「これが演劇だ」ということです。
演劇の「え」の字も知らないヤツがなーにエラそうに、と思われるかもしれませんが、勇気を奮って書きたいと思います。

「汐音」役の女の子は、きっと練習の段階で草履の表が出たら「晴」、裏が出たら「雨」というようにセリフを変えるように決まっていたとは思います。冗談で「立ったら曇」というアドバイスぐらいはあったんだと思いますが、その「まさか」が起きてしまったわけです。その「まさか」に対して「曇りだぁ~」と返してゆく。この即興性こそが演劇の醍醐味なのではないでしょうか。

もうひとつは「これが芸術だ」ということです。わかりにくいですね。

これは、いささかスピリチュアルな話になりますが、演劇に限らず音楽でもお笑いでも絵画の世界でも….いや社会生活の全般においても「おっ、神が降りてきたな」っていう瞬間があるんです。
「神」というのはあくまで比喩表現です。いわゆる宗教的なヤツとは違います。むしろ「神業」という時の「神」の使い方に近いでしょう。今までの努力や経験の積み重ね、これが時折「奇跡」を起こして、本来その人が持つ力以上の「何か」を発揮してしまうことがあるんです。
僕は不思議なことがあったとしても、それを理屈で考えようとするタイプの人間なのですが(その割に超常現象の本とか好きなわけですが)、こればかりは本当に理屈では説明できません。だってサンダルが立つことなんて、理屈では説明できないでしょう。

僕は年3回以上のスクールのライブで、120名をゆうにこえる歌声を聞いています。
そうすると120の歌声の中に「おっ、この人、今日は音楽の神様が降りてきてるな」「ああ、神様を呼んじゃったよ」って思う瞬間が必ずあります。それって決して上手い下手ということではありません。そういう時って、その人の日々の努力、日々の経験というものに、タイミング(機会)までもがピタリと合致して、説明し難い感動を受け取ることがあるんです。

大切なのはやはり日々の努力とか経験の積み重ねなんですよね。いささか説教めいていますが。
そうそう、僕は新年に川崎大師か柴又帝釈天に初詣に行くことが多いのですが、ある時にこんなお坊さんの説法を聞いたことがあります。
「皆さんは神頼みということを申します。しかし、皆さんが何かを成し遂げようとする時に、神様が助けてくれるのは、ほんの5%なんです。85%は皆さんの日々の努力、そして残り10%は運です」
内心「おお、はっきり言っちゃったよ」と思いましたが、全くその通りだと思いました。積み重ねておけば「奇跡」が起こるわけです。

それを「サンダルが立つ」という目に見える形で際立たせたのが、今回の演劇でした。
むろん演劇は集団芸術ですから「汐音」役の女の子だけの努力や経験だけでは、サンダルは立ちません。
劇団横綱チュチュの10年の経験やスタッフ出演者全員の積み重ねが奇跡的にサンダルを立たせたのでしょう。

ところで、もしあのシーンで女の子が「あっ曇りだ!練習の時は晴れか雨だったのになぁ」と言ったら、どうなっていたんでしょうね。