ちびまる子の時代

さくらももこの死去が報道された前日の日曜日、たまたま知人と彼女の話題になったんです。

日曜日は教室の納涼パーティーでした。
僕のテーブルには静岡の清水出身のF君がいました。
言うまでもなく、さくらももこは清水出身。「ちびまる子」も清水を舞台に描かれています。

彼いわく「僕の祖母はちびまる子が大嫌いだった」。

彼の祖母は「清水の人間は、あんなにバカじゃない」と憤慨していたそうです。

なるほど、そういう見方もあるよな?と思いながら、清水の街が水害に襲われたエピソードのヒトコマを思い出しました。

(『まるちゃんの町は大洪水』の巻」-「ちびまる子ちゃん」第2巻より)

昭和49年(1974年)7月7日の「七夕豪雨」を描いたこの作品、今年の西日本豪雨災害の事を思えば、洒落にならないエピソードではあります。

そこには危機的状況にもかかわらず、のどかでのんびりとした清水の人たちが、ユーモラスに描かれているのです。

そんなさくらももこは1965年生まれで僕とは同い年でした。
まる子のマンガには同世代だからこそ、共感できるネタがぎっしり詰まっています。

何話だったかは覚えていませんが、水泳の授業でプールサイドで準備体操をするシーンがある。
多分はまじだったと思うけど、「いちに、さんしー、ご苦労さん。ろくしち、はっきりくっきり東芝さん」とやって、こっぴどく先生に怒られる。
これなんか、潜在的記憶を掘り起こされて、戦慄するレベルでした。

プールは危険という事で、先生がいつになくピリピリした雰囲気で、
ちょっとでも悪ふざけをしようものならば、雷が落ちる。
そんな記憶を掘り起こされたのです。

それだけじゃない。花輪君もたまちゃんも丸尾君も長沢君もみぎわさんもクラスにいた「あいつら」を思い出すのです。

(多分、このコマの感覚を理解できないと...共感ではなく理解ね....昭和という時代も理解できないと思う)

さて、話は脱線します。
1990年に新入社員で食品会社に入社した直後、こんな事がありました。

関西支社に勤務し始めて一週間後、僕の所属していたアイスクリーム販売部の部長がギックリ腰で入院してしまったんです。
僕はまだ工場などでの研修中だったので、課の人たちから遅れてお見舞いに行きました。

夕方、支社から1kmぐらい離れた病院までテクテク歩いてゆくと、途中に古本屋がある。
課長からは「手ぶらで構わないから行って来い」と言われたのですが、
「そうか、本だったら退屈しないだろうな」と思ったわけです。

部長は口が悪くて「ちびっこギャング」なんて呼ばれていましが、
何か物事の核心をついてくる人だなぁと感じていたので、こっちも余計な儀礼よりは核心を突こうと思ったんです。

それで「ちびまる子」のマンガと吉村昭のたしか「冬の鷹」だったと思いますが、それを買って病室へ行ったのです。

マンガを持って行ったのには他に理由がありました。いえ「ちびっこギャング」というあだ名は関係ありません。

「弊社」は本当にキャラクター商品に弱くて、色が変わる「Mr.マリックアイス」とか、わけのわからないものばかり作っていたんです。
一方、まる子は絶対にヒットすると、24歳の僕は思っていたんです。

部長は「みんなよ~花と缶詰ばっかり持ってきやがってよ~、こういうのが助かるんだよなぁ~」と喜んでくれました。
「お前一人暮らしなんだから、缶詰を持って帰れ、持って帰れ!」。部長も単身赴任なのにね。

そこでマンガを渡しながら
「このマンガ、下らないと思わないでぜひ読まれて下さい。版権をぜひ取って欲しいんです。絶対ヒットすると思います」
と部長に真顔でお願いしたのでした。

さて「まる子」を読破した部長はとても気に入ってくれました。
そして本気で本社に掛け合ってくれたのです。
でもダメだった。版権は森永製菓と乳業に取られてしまったのです。
いつもキャラクター商品では3歩も前に出ている企業でした。

そうしたら夏になって「踊るポンポコリン」が大ヒットとなり、それとリンクしながら「ちびまる子」は社会現象となったのです。
レコード会社のビーイングはこのヒットを元手にWandsやZARDやB’zといった「ビーイングブーム」を作り出したぐらいです。
アイスクリームだって例外じゃなかったんです。森永の「まる子ちゃんアイス」は売れる売れる….

(まる子アイスはありませんが、今もなお森永さんはキャラクター商品として使っているようです)

部長は事あるごとに「宗よ。俺はこんな悔しい事はない」と言ってくれました。本当にいい方でした。
そして、なぜか直属の係長が僕につけたあだ名が「まる子」。
「ピーヒャラピーヒャラ言ってないで、仕事せい!」なんて言われましたっけ(;^_^A

さて話を戻します。「まる子」以上に好きだったのが「コジコジ」でした。

メルヘンの国に住むコジコジは宇宙生命体….いや唯一無二の宇宙そのものという存在なのですが、メルヘンの国の日常生活の中では、むしろ馬鹿そのものという存在です。
彼(いや性別はないのかも)の哲学的なんだかそうでないんだかわからないおバカ発言と行動に周囲は振り回されたり、妙に納得させられたり….

そんな中で忘れられない名セリフが

「神様は心の中をウロウロしているので、このあたりをウロウロしていません」

というやつでした。
「コジコジ」も面白いですよーというのが納涼会での会話でした。

さくらももこのマンガを読むと「まる子もコジコジも作者自身なんだろうなぁ?」と思います。

いや、1965年生まれの世代って、多かれ少なかれまる子やコジコジ的なトコロがあるのかもしれません。
怪獣ブーム、オカルトブーム、UFOブームで育ち、ドリフに大爆笑し、バブル時代は貧乏なクセに能天気な消費者。
就職してバブルの恩恵を被ろうとしたら崩壊の渦に放り出される。

社会が建前でがんじがらめになってゆく息苦しさを感じながら、それでも生きている。
昔はオバカ社会で良かったなとフト思う。
そんな所がです。