さよなら茶目子 -平井英子さん死去 享年104歳-

自分の頭の中には「100歳以上で存命の有名人リスト」があります。
それは長命の方への畏敬の念はもちろんですが、歴史が現代とリンクしている事を確信できる具体的な例でもあるからです。

昨年(2020年)、その中からイギリスの歌手ヴェラ・リン (享年103歳)と、アメリカの女優オリヴィア・デ・ハヴィランド (享年104歳)が亡くなってしまいした。

そして5月13日の読売新聞で、平井英子(ひらいひでこ)さんの訃報を知りました。2月21日に亡くなられたとのこと。享年104歳でした。

日本の童謡歌手の先駆けとして知られる平井英子(ひらい・ひでこ、本名・鈴木英=すずき・ひで)さんが今年2月(21日)に老衰で死去していたことが分かった。104歳だった。東京都内の老人ホームに入所していた。

読売新聞ニュース

平井英子は昭和初期から活躍した15年ほど活躍した童謡歌手です。ルックスも歌声もチャーミングで表現力も豊か、ジャズ系の楽曲もリズミカルに歌いあげ、それまでの童謡歌手とは一線を画した人でした。

僕が把握している限りですが、彼女の一番古い録音は昭和3年1月8日録音の『證誠寺の狸囃子』です。

ただしこれは彼女の貴重な録音集である『スター・デラックス 平井英子』解説書の誤記の可能性が高く、『昭和4年』が正しいと思います。

何しろ米ビクターで藤原義江がマイクロフォンによる電気録音を行ったのは同じ1月28日の事。『證誠寺の狸囃子』はどう聞いても電気録音ですから、藤原より先に国内で電気録音されたというのは考えにくいです。

おそらく彼女の録音では昭和3年3月3日の『南京言葉』が一番古いのではないかと思います。ピアノ伴奏は作曲の中山晋平本人です。もう想像を絶する歴史ですね。それが現在とつながっていたんです。平井英子は電気録音の黎明期を知る最後の一人だったと思います。

彼女といえば、20年ほど前にサブカル系で話題となった『茶目子の一日』が有名です。
昭和4年(1929)1月17日録音のこの曲は、当時は珍しいトーキアニメも制作されています(昭和6年)。

戦前世代だと昭和12年に岸井明とデュエットした『タバコやの娘』が有名かもしれません。
僕の母は昭和13年生まれですが、時々この歌を歌っていたものです。

そんな彼女も、戦時中に結婚によって引退します。
自分が持っている音源では、岸井明とのデュエットで録音した『村の横綱』が最後の録音です。
この曲は真珠湾攻撃直後の昭和16年12月15日に録音されました。

ちなみに夫は作曲家の鈴木静一
彼こそは『タバコやの娘』の作曲家であり、黒澤明の初期三部作『姿三四郎』『一番美しく』『続姿三四郎』のサウンドトラックを書いた人でもあります。

特に昭和18年の東宝映画『ハナ子さん』のサウンドトラックは素晴らしい出来、そして主題歌となった『お使いは自転車に乗って』は戦時離れした軽快さでヒットしました。

管理人が持っている平井英子の曲が収録されているCDたち一番上の2枚が基本

そう、何もかもが音楽の歴史です。
その歴史が、いま終わりました。

自分の中にあった「100歳以上で存命の芸能人」リストから、最後の一人が消えてしまった気がします。
多分、また増えてゆくのだとは思いますが。