スターボー

2016/3/24 木曜日

たとえば食事中に「唖然とする」ような事態になったとする。
“半開きの口の中にご飯を入れたまま、体がフリーズする"
そんなマンガみたいことは滅多にないはずだ。

それを1度ならず2度まで経験させられた人たちがいる。
その名を「スターボー」という。

高校生のある日、食事しならTV(おそらく「TVジョッキー」)を見ていたときのことだ。

アシスタントの女性が、
「今度デビューした"スターボー"の皆さんです」と紹介した。

カメラに映ったのは宇宙人っぽいコスプレに、ボーイッシュな髪型の3人組の女の子。3人とも腕組みをして両足を肩幅以上に広げて立っている。ニコリともしない堅い表情。
そして真ん中の女の子が閉口一番、押し殺したような低い声でこう言った。

「我々は○○惑星から来た、スターボーだ」

その瞬間、僕はご飯の入った口を半開きにしながら、唖然とTV画面を凝視していた。その三人のアイドル・グループは「宇宙から来た」という設定を、演じきっていたのだ。

やがて彼女たちは歌いだした。彼女たちの音楽がテクノ系だということはわかった。当時はYMOがブームで何でもかんでもテクノの時代だったからだ。だけど「テクノ=宇宙」という発想が僕には理解できなかった。

これは後追いの知識だが、彼女たちは"太陽系第10惑星「新惑星スターボー」から地球にやってきた宇宙三銃士”だった。その目的は「地球人にA.I (愛)を伝える」こと。なお、彼らの星には性別がない。それが理由なのかどうか不明だが、彼女たちは男口調で喋る、歌う、しぐさする.....アイドルとは「演じること、演じきること」なのだけど、それを極限までおしすすめたのがこの3人だった。

それから数ヶ月も経っただろうか、また食事をしながら音楽番組を見ていてスターボーに「遭遇」した。
まず、アシスタントの女の子がこう言った。
「スターボーの皆さんがイメージチェンジしました(注:本当にこう言った)、それではどうぞ!」
そこにはフリフリのスカートに、当時ハヤリの聖子ちゃんカットの3人が、満面の笑みをうかべて立っていた。そして3人揃ってこう言った。
「こんにちは!スターボーでぇ~す!」
あんぐりと口を開きながら、僕が再びフリーズしたのはいうまでもない。

その後、彼女らの記憶を封印したまま、15年以上が過ぎた。
高校生だった僕は、CDショップの店長となっていた。
ある日、P-Vine Recordのカタログを見ていたら、
「テクノ歌謡コレクション:ポリドール編 ハートブレイク太陽族」のリリース情報があった。
スターボー
そのジャケットを見た瞬間、これらの記憶が鮮やかによみがえってきた。

僕の頭の中だけではなく、このCDのリリースを機に「スターボー」の名はバブル崩壊後の社会にも一気に浮上した。開いてはいけない日本芸能界のパンドラの箱が開かれてしまった。同時体験者たちが日常の暮らしの中で意図的に封印しようとした記憶が白日のもとに引き出されてしまったのだ。それだけではない、いわゆるカルトミュージックばかりを追いかける連中、テクノ・ミュージックのルーツを追い求める連中、そういった重箱の隅を突っつくひとたちの熱狂的な支持によって、彼女たちの唯一のアルバムまで再発されてしまった。

おかげで様々な情報が僕の脳内に流入した。15年以上前に僕が見た歌が「ハートブレイク太陽族(1982)」というタイトルだったこと、作詞が松本隆、作曲が細野晴臣という"はっぴいえんど"コンビだったこと、イメチェンをしたのは次のシングルで、そのタイトルが「たんぽぽ畑でつかまえて」だったこと、結局1枚のアルバムと3枚のシングルで芸能界から消滅してしまったこと....

昨日ある人とこの話になった。80年代後半のアイドル音楽通のこの人も80年代前半のこの「事件」は知らなかった。そこでためしに2人でYoutubeをチェックしてみたところ、何と動画がUPされていた。

だけど、これは僕が見たスターボーとはかなり違う。こんな笑顔は一切なかったし、もっと低音の男っぽい口調で話していた。きっと僕が見たスターボーは宇宙から来たばかりだったのだろう....日本の芸能界(ここもある意味宇宙的な世界ではあるが)で目的を遂行するうちに、腰の低さや愛想笑いというものを会得していったのだろう。あるいは番組出演時に芳村真理・井上順の異次元的な空気に呑まれたのかもしれない。ちなみにイメージチェンジ後の映像も現存していた。おそらく「タンポポ畑でつかまえて」に続くシングルだったのだろう。曲名は「サマー・ラブ」。

「去年の冬は流行りのポーチにショートヘアで、原宿あたりで踊っていたけど」という歌詞を聞いて、「あれ、宇宙にいたんじゃなかったっけ?」と思う貴方は正常だ。
たとえその疑問そのものが非日常的だとしてもだ。

80年代は泡沫アイドルの時代でもあった。
リアルタイムでは明らかにマーケティングのミスに終わったかようにみえたスターボーだが、こうやって今も語られるとこを見ると、本当は宇宙的な視点で25年先を先取りしていたのかもしれない。

参考サイト
スターボー資料館
○from IDOL POPSより「Starbow1
○CDジャーナルのニュース
宇宙からやって来たアイドル、スターボーの唯一作が曲追加&紙ジャケ仕様で復刻!

追記:彼女らの情報で圧倒的に欠落しているのは、「誰がこれを考えたか?」ということ。何となくホリプロの匂いを感じるスターボーだが、所属事務所も不明だし、彼女らのその後の消息も不明だ。当時16歳として現在40歳。どこでどうしてらっしゃることやら.....