広島拾遺(2) ぶうらぶら

長女の話からはじめる。
中学校一年生の女の子というのは微妙な年頃で、オトナでもなしコドモでもなし....だいたいコイツはオシャレにも身だしなみにも無頓着で、わざと不精な格好で「乙女」になることをガンとして否定しているようなところがある。その手抜きさ加減と頑固さだけは僕に似ている。
たまに「もっと乙女らしくなりたまへ」と言うのだけど、その一方で「子供っぽい方がやっぱりいいよな」と思ったりする。

そんな長女が「広島へ行きたい」と言ったのは、もう半年も前のことだった。
僕が買ってきた「夕凪の街 桜の国」というマンガを読んで、感じるところがあったらしい。
夕凪の街 桜の国
こうの文代」によるマンガは、極めて完成度の高い文学だった。
被爆後10年が経過した広島から物語は始まる。ひとりの女性の死を経て続いてゆく家族3代の物語は、平成16年の桜の風景の中で終わる。原爆投下直後のシーンは数コマしかなく、悲惨さを強調するマンガではない。あれからそれから何十年を経ても、その原爆は時折波のようにこの家族の心を揺るがせるさまを描き、それでも家族がのびやかに生きてゆくさまを描く。
夕凪の街 桜の国
僕が子供の頃の原爆に関するマンガといえば反戦色や政治色が全開だったけど、このマンガにはそんな要素は一切なかった。それでも娘に「広島に行きたい。原爆ドームをみてみたい」と言わしめたマンガだった。

ようやく半年後になって予定がついた。
新幹線のキップと宿泊券を買って「おい、広島行こうぜ」と言ったら、ストレートに「いやだ」と言われた。
どうもこの半年の間に本格的に微妙な年頃に突入してしまったようだ。
「アホか、自分が行きたい言うから、チケット取ったんやで」と関西弁で叱る。長女は生まれてから5年間京都にいたから、どうしてもこの子と勢いのある会話をするときは関西弁に戻ってしまう。

結局母親が言い聞かせたようで、妙に素直になった娘と僕は新幹線に乗ったのは11月1日のことだった。
「お父さん、"くるり"聞こう」と娘が自分のMp3 Walkmanを取り出す。どうするのかと思ったら、左のイヤホンを自分の耳に装着し、右のイヤホンを僕に渡した。こんな風に音楽を聞くのはもう15年ぶりだ。そうやって聞いているうちに、僕はうつらうつらと居眠りをはじめた。夢見心地に自分のイヤホンが外れて落ちるのを感じた。そうしたら娘はそれを拾って、僕の耳の中に無理やりねじこんだ。こういう優しいのか強引なのかわからないところが、小さい頃から全然変わっていないなと思った。
空を飛ぶような感覚になるカモノハシ列車は、3時間45分と広島へと到着した。

そんな前置きだから、当然原爆に関する話を書くと思いきや、それは今後このような形で書いてゆこうと思っている。

【お好み焼き村】
お好み焼き村
旅行へ行く前に、広島県出身の生徒さんから色々情報収集したのだけど、広島県人にとって、お好み焼きというのは「おやつであって、夕食ではない」んだそうだ。言われてみれば横浜人だからといって崎陽軒のシウマイが夕食のテーブルに並ぶとは限らないよな....とはいうものの、結局夕食は3日3晩とも「お好み焼き」だった。初日なんか娘と二人で2軒ハシゴした。もうたまりませんな。
これは初日に行った「お好み焼き村」。
繁華街のビルの3フロアに25のお店が入っている。観光客にはお勧めのスポットなんだそうだ。でも意外と会社帰りのOLさんとかが結構いた。ノリは「屋台村」という感じ。
久ちゃん
ブラリと入った「久ちゃん
広島のお好み焼きといえば、そば入りというのが特徴だと思っていたが、それは決して絶対条件ではないんだそうだ。関西のように汁と具を混ぜて焼かずに、別々に焼くのというのが絶対条件で「広島風」のゆえんらしい。
普通は食べる前に写真を撮影するものだけど、美味しそうなのでつい.....

【奥田民生と田中麗奈】
奥田民生と田中麗奈
お好み焼き村のお店の片隅に貼ってあった。カミさんと僕が好きなミュージシャン&女優さんなので記念に撮影しておいた。奥田民生は生粋の広島っ子で、広島市民球場でギター一本の弾き語りライブ「ひとり股旅」をやったこともある。このシーンは木村カエラ主演の映画「カスタムメイド10.30」でも見ることができる。
田中麗奈の写真は、映画化された「夕凪の街 桜の国」のもの。

【大仁田厚】
大仁田厚
別に広島だから必ず大仁田厚がいるわけじゃない。たまたま選挙の応援で来ていた大仁田厚を目撃したのだ。
チンチン電車の中から娘と手を振ったら、こちらに気づいて手を振ってくれた。

【ジキルとハイドなチンチン電車】
チンチン電車
とにかく驚いたのは、広島という都市は、便利すぎるぐらいチンチン電車が走っているということ。時刻表なんて気にする必要は全くない。目の前の電車に乗りそこなったと思っても、次の電車が後方数百メートルからやってくる。
11月2日、世界遺産の安芸の宮島へ行くのに、娘と二人で広島駅からチンチン電車に飛び乗った。この電車、時速20kmぐらいでのったりのったりと街中を進んでゆく。駅間距離は短いし、信号にひっかかるから遅いことこの上ない。
チンチン電車の軌道敷石
こりゃあ宮島口まではだいぶかかりそうだぞと思っていたところ、事態が一変する。
広電西広島駅を過ぎて専用の線路に入った瞬間から、このチンチン電車はジキルとハイドになった。京急や東横線と何ら変わらぬ時速50kmぐらいの猛スピードで走りはじめたのだ。その豹変の仕方があまりにも可笑しくて、娘と二人でゲラゲラ笑いこけたのだった。安上がりでのんびりとした1時間の旅だった。

【牡蠣】
宮島口から宮島へはフェリーで10分。片道170円という信じられない安さだった。
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宮島へと到着し、ぼてぼてと厳島神社までの参道を歩いてゆく。
宮島
この季節の広島といえば牡蠣を食べなければはじまらないようだ。美味しそうなお店を見つけて、焼き牡蠣を注文する。
牡蠣
ところがよく考えたら、僕は牡蠣は全然食べれないのだ(貝類と甲殻類はほとんど食べれない)。
ひと口ほど口挑戦するが、やはり無理。
「あっこれ俺やっぱダメだ。お前食べていいよ」と娘に進呈する。
「お父さん、好き嫌いしたらだめだよ」と娘に笑われる。
「お前だってスパゲッティ食べれないだろう。人間、好き嫌いがあった方が人生楽しいんだよ」。
とわけのわからない理屈を打ってみる。

【でかっ】
でかしゃもじ
でかいです。

【厳島神社】
厳島神社
これには感動した。今まで見てきた神社の中で最も美しかった。
ほとんど海上に神社を建造してしまうという発想も凄いけど(だから台風の影響でしばしば被害を受けている)。水と神社の朱色の組み合わせがこんなに美しいとは思わなかった。
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景色的に社殿より鳥居の方が主役になっている神社っていうのもはじめてだった。
「日本には見るべき場所がまだまだあるなぁ」と思った。
厳島神社
普通、神社というのは自然の中にあっても、自然と一体化しないでむしろ「聖域」を作り出し、その中で凛として輝いているものなのだけど、ここは自然を取り込みながら同じように輝いている。そこが凄いとも思った。
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音楽で言えば他の神社がKing Crimsonだとしたら、これはPink Floydだな。自分で書いていて意味がわからないけどね。
厳島神社
こちらの砂浜は太陽の光が降り注いでいるけど、鳥居の向こう側(本州側)では雨が降っている。この撮影から1分後、我々も突然の土砂降りの大雨に襲われることになった。おかげで弥山に登るのは断念した。
そのかわりと言っては何だけど「秋の特別公開」ということで国宝の平家納経数巻の実物を見ることができた。平家が厳島神社に奉納した30数巻からなるお経の巻物。金箔がふんだんに使われていて、平家の繁栄が感じられる逸品。平清盛の直筆のお経を見て、娘と「すげ~」。

【広島城】
実は天守閣マニアである。15年前の広島行きでは最初に行ったのがここだった。
広島城
外観はそれらしい造りになっていて実に美しいのだけど、内部は鉄筋コンクリート造りだ。広島の歴史博物館となっている。広島浅野藩の藩士が使用していた刀が展示されていた。この武器がどこに保管されていたかは知らないが、人類が使用した最悪の兵器である原爆をかいくぐって、いまここにある武器だということに、不思議な気持ちになった。
広島城
昭和20年8月6日、原爆の爆風をまともに受けた天守閣は、一瞬建物すべてが浮かび上がって北側にスライドし、そのまま崩れおちたという(目撃者談)。最後の藩主だった浅野長勲が96歳という長命で亡くなった8年後のことだった。

【広島市民球場】
広島市民球場と原爆ドーム
天守閣からみた広島市民球場(旧)。照明塔の向こう側に原爆ドームがひょっこり顔を出している。
この球場も来年には解体されてしまうことになっている。
先述したように民生ちゃんの「ひとり股旅」は、満杯の広島市民球場のマウンドで、ギター弾き語りという、ミュージシャンの本懐みたいなライブだった。

ぶうらぶら

Posted by spiduction66