もしもし、どなた?

僕の家は、庭に出るところがちょっとした屋根つきのテラスになっている。そこにはテーブルと椅子があって、蛍族にとっては憩いの場所だ。ところが.....

昨日、大雨の深夜3時すぎのこと。
一服するためにカーテンを開いてサッシを開いた瞬間、心の底から爆発的に驚いた。

何者かが椅子に座って、テーブルにうつぶせになっている。

「さっそく出てきやがった!」と思った。
というのも、この日エッちゃんと喉と幽霊の話をしたばかりだったからだ。

よく見ると生の人間。どう見てもここの家の住人じゃない。ユニクロのフリースを着て、靴は履いていない。テラスに流れこんできた雨水で靴下はグショグショだ。この雨と寒さの中、死んでいるんじゃないかと思った。

意を決して、話しかけてみることにした。
「もしもし、どなた?」
すると一瞬上げた横顔には生々しい擦り傷。

あわてて家に飛び込んでサッシとカーテンをを閉め、警察に電話する。
「知らない人が庭先で寝ています!」
「わかりました、絶対にその人と接触しないで下さい」。男は気配に気づいたのか起き上がって、テラスの中をうろうろしている様子だった。何かが倒れる音がする。

2階にかけ上がってカミさんを叩き起こし、階段に障害物を並べさせてバリケードを作らせた。
その上で防具を探す。おあつらえ向きのものがあった。ギタースタンドだ。これなら刺又レベルの防御ができそうだ。それを持って玄関のほうから回り込んで、テラスの男を遠まわしに監視する。

どうも男は泥酔しているようだ。フラフラと障害物にぶつかりながら、テラスの中をうろうろしている。そのうちテラスから出てきた男は、隣接したオヤジの家の勝手口の方へ向かおうとする。この時点で完全に頭に来たので、
「そっちへ行くな!この野郎!」と怒鳴りつけた。
怒鳴りながら内心「お巡りさん、早く来てちょーだい」と思った。

ようやく警察官が2名バイクで到着。
「こっちです、こっち」とギタースタンドを振り回しながら叫んだ。ところが警察官は僕を不審者本人だと思ったらしく、なかなか近づこうとしない。遠巻きに僕に対して身構えている。
だからこっちから行って「私はここの家のモンです!」と言い切った。

その後は大雨の中で事情聴取。
この男は駅前で友人と飲んだくれた挙句、あとは記憶がないのだという。
警察官曰く「普通の状態ならば住居不法侵入で処理したいのですが、この人は完全に泥酔状態ですから、なかなかそれも難しく....」
「ああ、わかってます。僕もそのつもりはないんで」
ただし腹が立ったので、警察官と別にこの男に免許証を提出させて住所と名前を控えた。その住所は同じ町内で一本の道でつながっているものの、全く逆方向だった。

男は警察官に連れられて自宅まで送られていった。警察官はバイクで来ていたので、徒歩で1キロ以上離れた自宅まで送っていった。またここまで引き返してバイクを拾うのだろう。
ご苦労なことだ。

そして翌日、庭に放置されていた男の携帯とジャンパーを発見したので警察に届けた。世話の焼けるやつだ。

教訓
●飲むのはいい。ただし飲んだらタクシーで帰るか牢屋に入るか選択すべし。
●野良猫のクーちゃんが落ち着きのない動作をしている時は、庭に誰かいると思え。
●人間、本当に驚いた時は「うわー」なんて絶対に言わない。胸声で「うっ」と言う。
●自宅の防犯を強化すべし。
●人様のフィールドに入り込んで好き勝手やる奴は、断固排除すべし。
●ギタースタンドは防具として使える。