上高地乗鞍スーパー林道と廃屋

長野県の松本市に『上高地乗鞍スーパー林道(別名奈川安曇スーパー林道)』という道がある。
名前に『上高地』とあるものの、別に上高地を通っているわけでもなく、関連する地点を通っているわけでもない。そういう意味では『東京ドイツ村』や『新東京国際空港』と変わりはなさそうにみえる。

でもあえて弁護するならば、この道が上高地へのライフラインとして活躍した事があった。松本市と上高地を結ぶ国道158号線が『うすゆき橋』付近の大崩落で通行不能になった時(2005年7月2日)のことだ。この林道の『B区間』が唯一の迂回路として2年ほど活躍したことがある。
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(国道158号線うすゆき橋付近の崩落現場。今でも生々しい爪跡が残っている)

この林道を地図で表示するとこんな感じだ。

(地図のポイントA.B.CはGoogle Mapの仕様ですので区間名とは関係ありません)
3つの区間に分かれている。松本側から来た場合、奈川黒川渡(なかわくろかわたび)と乗鞍高原間がA区間、乗鞍高原から白骨温泉間が先述したB区間、ここは最も交通量が多くてバスも走っている。C区間は白骨温泉から安房峠までなのだけど、橋の流出と土砂崩れによって2003年以来、閉鎖されている。現在は「林道へ行こう!」さんのような猛者によるC区間潜入レポートでしか伺うことしかできない。この区間が復旧する可能性はゼロに近く、このまま朽ち果ててゆくのだろう。これは余談だけど2000年に閉鎖前のC区間を通るチャンスがあった。諸般の事情で断念したのが今となっては悔やまれる。この界隈では「いつまでもあると思うな山の道」というのは真理だ。

そんな「乗鞍スーパー林道」を通るのは今回で2度目だった。
最初は東日本大震災の起きた年の十月の終わりのこと。乗鞍高原ではもう晩秋を越えて冬が扉を開いていた。あと十日ほどでこの道も冬季閉鎖となってしまうような時期だった。この時は奈川黒川渡(なかわくろかわたび)から入って乗鞍高原へと抜けた(A区間)のだけど、山は冷え冷えとして、空は曇天に覆われ、今にも雪が降りそうだった。
乗鞍スーパー林道から
(白樺峠付近から。遠くに乗鞍岳が見える。2011年)
この時は一人旅だった。
「一人旅」なんて書くとセンチメンタリストの様に聞こえるけど、単に「道マニア」が上高地近辺の道をじっくり堪能しようとしたに過ぎない。色々ネタは生まれたのだけど、ブログに書くのをすっかり忘れていたから、おいおいUPして行こうと思う。

今回(8月15日)は、それに比べれば平穏なものだ。
家内と乗鞍高原に旅行へ行った帰り道、前回とは逆にA区間を乗鞍高原から奈川へと抜けてみた。
走っていてつくづく思ったのは、この道は晩秋に限る、ということだ。夏のスーパー林道は木々が生い茂っていて、北アルプスの山々を望むことが難しい。さらに運悪くこの日は思い切りガスっていた、ほとんど景色を堪能せずひたすら走ることとなった(それはそれで楽しい)。

ちょうど偶然にも乗鞍側の冬季閉鎖ポイントで似たような写真を撮影していた。
乗鞍スーパー林道 乗鞍側閉鎖地点(2011年)
(乗鞍スーパー林道 乗鞍側閉鎖地点 – 2011年)
乗鞍スーパー林道 乗鞍側閉鎖地点(2016年)
(乗鞍スーパー林道 乗鞍側閉鎖地点 – 2016年)

あんまり比較の対象にならないかもしれないけど、夏場は木々が生い茂っているかがおわかり頂けるだろう。

もう一つ思ったのは、この道は奈川側から越えるに限る、ということ。
乗鞍側からだと北アルプスに背中を向けて走ることになってしまい、眼前に展開してゆく景色は平凡なものだ。そんなわけで、スーパー林道からの風景に関しては2011年の写真でお茶を濁すことにする。
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(雲海に埋もれた乗鞍高原。2011年)
一之瀬園地付近の白樺
(一之瀬園地付近の白樺。2011年)

ほぼ唯二撮影したのがこの写真。
乗鞍スーパー林道 奈川側料金所
(奈川側料金所。ただし現在は無料)

ぽつんと取り残された料金所の建物は2008年で業務を終えている。決して償却が終わったわけではなく赤字から抜け出せなかったからだ。まさに「スーパー林道の現実」と言える風景だ。
1965年から1990年にかけて森林開発公団(現森林農地整備センター)の主導で全国に総延長1,791kmの『スーパー林道(特定森林地域開発林道)』が建設された。名目は林業の振興だったけど観光用道路としても利用できる高規格道路というのが売りだった。『〇〇公団』という名前には、ある主の利権に群がる天下り役人の匂い、ゼネコンとの癒着の匂いがプンプンする。御多分に漏れず「何のための道路か?」「何のために作られるのか?」「本当にメリットがあるのか?」が明確でないままに作られていった道も多いし、実際「緑資源機構談合事件」なんていうのも記憶に新しい。
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(同料金所を奈川側から撮影 2011年)
「自然破壊」という汚名も背負いながら整備されていったスーパー林道だったけど、燃料革命や木材の輸入自由化によって林業が衰退する中では、林業の振興に供する時間は短かった。さらに場所がら道路の維持費も膨大な額となり、結局放棄されたまま(C区間のように)廃道になってしまった区間も多い(一方で観光道路として存続しているスーパー林道もある)。

ま、そんなことを踏まえつつ料金所を通り過ぎて奈川の集落に出たら、廃屋が随分目立つのに気付いた。
廃屋Aは『秘湯を守る会』宿の奈川温泉を通り過ぎてまもなくの場所にあった。
廃屋A窓
廃屋A扉
Googleストリートビューでみると、すでに2012年6月時点では廃屋となっていたことがわかる。この時点ですでに玄関の窓ガラスが割れているのだけど、4年を経ても不思議と建物の崩壊が進展していないのに驚かされる。

お次は勝手に『材木お大尽屋敷』と命名した廃屋B。積雪の重みで庇がだらんと下がってしまっている。
廃屋Bお大尽屋敷
隣接する納屋(材木倉庫?)の前には薪が山のように積まれていた。
廃屋Bお大尽屋敷の薪
かなり立派な屋敷ではあるけど、本家に対する東分家みたいな地位関係にあるんじゃないかと勝手に推測。ちなみにストリートビューではすでに廃屋となっている模様。
1廃屋Bお大尽屋敷の納屋

最後は廃屋C。製材関係の作業所ではないかと思った。道路のお向かいには山から切り出してきた木材を、一定の長さに裁断したものが、山のように積まれていた。
廃屋C扉
廃屋C
材木の不況と過疎化の同時進行とでも言うのだろうか。天下の「乗鞍スーパー林道」の玄関口とも言える集落の現状に驚きもしたけど、一方でのんびり過ごすにはよい場所だなとも思った。
いつか奈川温泉に宿泊するのも悪くないなと思った。

そうこうしているうちに奈川黒川渡(なかわくろかわたび)のスーパー林道入口までたどり着いた。
奈川黒川渡スーパー林道入口
正面では道路標識が「どちらへ向かいますか?」と僕に尋ねてきた。うーむこれは究極の選択ですな。
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野麦峠を通って木曽路にでも抜けてみようと、右にハンドルを切った。